ケミカルタンカー用高耐食性ステンレス鋼板の開発について(NSSC 260A) ~世界で初めてメンテナンス作業を大幅削減~

2003/11/19

新日鐵住金ステンレス株式会社(所在地:東京都中央区、社長:萬谷興亞、以下「NSSC」)は、従来の鋼材で見られる腐食トラブルを抑制し、お客様でのメンテナンス作業を大幅に削減するケミカルタンカー用高耐食性ステンレス鋼板を世界で初めて開発致しました(規格名称:NSSC 260A)。

本商品は、メンテナンスの省略を徹底追求することで産み出されたケミカルタンカー用ステンレス鋼板であり、従来の鋼材の難点を克服したものです。

具体的には、硫酸、粗製りん酸の運搬に伴い発生していた鋼板表面の腐食の進行を抑制すると同時に、耐海水性も十分なレベルに引き上げたことによって、使用過程での各種メンテナンス作業が大幅に削減され、お客様のコストダウン、運搬効率の向上、環境負荷の低減等に貢献致します。

1. NSSC 260Aが提供するソリューション

硫酸、粗製りん酸等を積載するケミカルタンカー向けには、従来主にJIS規格SUS 316LN(18Cr-11Ni-2.8Mo-0.15N)が使われてきましたが、タンク表面の腐食が避けられず、お客様において酸洗処理等のメンテナンスが実施されております。また、ケミカルタンカーが様々な液体を運搬することから、荷降ろし後に海水にてタンク洗浄を致しますが、海水中の塩分による局部的な腐食(発銹)を除去するために、別種のメンテナンスも行われています。

NSSC 260A(22Cr-16Ni-3.5Mo-2Cu-0.2N)は、こうした問題点の解決に向け、上述の各種腐食環境の全てにおいて十分な耐食性を発揮するよう合金設計されております。すなわち、
1)硫酸中での腐食速度が、既存鋼SUS 316LNの約1/30となります。
2)粗製りん酸の腐食に起因する変色が大幅に軽減されます。
3)海水洗浄時の耐局部腐食性も大幅に向上しています。

NSSC 260Aは、このように、既存鋼SUS 316LNでは腐食トラブルを抑えられなかった三種(硫酸、粗製りん酸、海水)の腐食環境の全てにおいて優れた耐食性を発揮する画期的な新商品であり、当該用途では世界で初めて各種メンテナンス作業を大幅に削減致します。

メンテナンス作業の省略は、お客様に以下のメリットを提供致します。
1)当該費用の大幅削減
2)運搬効率の向上
  ・修繕頻度の減少による実運行時間の増加。
  ・積載可能物の拡大による機会損失の縮小。

なお、本商品は、溶接構造用鋼材として良好な溶接性を有するものですが、溶接継手部においても同等の耐食性を発揮させるために、専用の溶接材料を開発致しました。

2. 地球にやさしい新商品です。

本商品のご使用により、航海後の酸洗処理頻度が著しく減少致しますので、お客様の事業活動における環境負荷の低減に貢献できます。

3. NSSC 260Aの適用例

ケミカルタンカーへの適用に向け、本商品のお客様での評価試験が進められております。また、本商品は硫酸環境と塩化物イオンを含む環境において優れた耐食性を発揮することから、ケミカルタンカー向けに限らず、硫酸が生成し易い重油焚き排気ガスの煙突等に広くご使用いただけます。

NSSC 260Aは、NSSC研究センターおよび新日本製鐵(株)技術開発本部の密接な連携によって開発されたNSSC設立記念商品の第2弾です。

省ニッケル・高マンガン鋼ならではの具体的な適用用途の存在や、原料ニッケルの需給緩和効果を持つという側面をも勘案し、当該鋼種群に関わる一定の課題が克服され、これらが、ステンレス産業全体のなかに正しく組み込まれることが望まれます。

ご参考

1. ケミカルタンカーでの硫酸および粗製りん酸の運搬について

ケミカルタンカーは様々な液体を運搬しておりますが、その中で、アフリカ等の肥料用のP(りん)の製造産地に向け、わが国や韓国等から、りん鉱石を溶かす濃硫酸を運搬し、そこで製造された粗製りん酸液を、インド等の化学肥料生産国へ運搬いたします。

2. ケミカルタンカー用途における既存ステンレス鋼の問題点

既存鋼SUS 316LNにおける腐食トラブルに関し詳述致します。

  1. 濃硫酸の荷降ろし後、残留液が大気中から吸湿し腐食性の高い40~50%の中濃度硫酸となり、既存鋼では、鋼板表面が激しく腐食されます。
  2. 粗製りん酸運搬中に、鉱石に含まれるフッ素や塩素等の不純物が揮発し、既存鋼の表面に黒色の腐食生成物が形成されます。
  3. 荷降ろし後に実施される海水でのタンク洗浄によって、既存鋼では、局部的な腐食(発銹)が発生します。

このように、SUS 316LNは、硫酸並びに粗製りん酸による全面腐食の問題と、海水による局部腐食の両面にわたり難点を抱えております。
なお、海水による局部腐食の問題を解決するため一部で二相ステンレス鋼が使用されておりますが、この二相ステンレス鋼も、硫酸中での耐全面腐食性がSUS 316LNと同等レベルという点で問題があり、耐海水性と耐全面腐食性の双方を兼ね備えたケミカルタンカー用新商品の開発が強く求められておりました。

3. NSSC 260の特長

NSSC 260Aは、こうした既存鋼の課題を克服致しました。具体的には、

  1. 既存鋼SUS 316LNにおける、中濃度硫酸並びに粗製りん酸中での全面腐食機構を解明し、全面腐食防止に効果のあるCuを2%添加しました。これにより、硫酸中での腐食速度について、SUS 316LNに対し実に約1/30という画期的な改善を示すとともに、粗製りん酸による変色も大幅に軽減しました。
  2. さらに、タンク洗浄時の海水による発銹を防止するためにCr、Mo等を増量し、二相ステンレス鋼と同等の耐海水性を実現しました。

本商品は、硫酸、粗製りん酸等の腐食性無機酸中での耐全面腐食性と、海水中での耐局部腐食性を兼ね備えた他に類を見ない新商品であり、本用途において世界で初めて各種メンテナンス作業を大幅に削減致します。

ご参考2

【耐硫酸性の向上】

NSSC 260Aは、50%硫酸における腐食速度について、既存鋼SUS 316LNの実に1/30となります。

【粗製りん酸による変色の軽減】

NSSC 260Aは、粗製りん酸中における変色が大幅に軽減されます。

【耐海水性の向上】

NSSC 260Aは、二相ステンレス鋼S31803(耐海水性鋼)と同等の耐海水性を有します。

本件に関するお問い合わせは以下にお願いいたします。
新日鐵住金ステンレス株式会社
 商品技術部 TEL 03-3276-4890
 企画部 TEL 03-3276-4912